No.1 ボウドプサルテリー詳説
初版:2025-10-13
第2版:2025-11-24
目次
歴史
「ボウドプサルテリー」は1925年にヴァイオリンツィター(Violon Zither)としてドイツのクレメンス・ノイバー社(Clemens Neuber Company)によって特許が取得されました。今日親しまれている三角形のボウドプサルテリーは、子供が大人と同じくらい簡単に習得して演奏できるようにとの思いからドイツ人の小学校教師によって発明されました。発明・普及年代、発明者はwebサイトや本によってばらつきがあるため一概には言えないですが、1930年代から第二次世界大戦後にかけて、ドイツ・ヴェストファーレンの小学校教師であるヴォルター・ミットマン(Walter Mittman)と同・ザールブリュッケンの音楽教師であるエドガー・シュターマー(Edgar Stahmer)によって発明・普及したようです。
ボウドプサルテリーはボウド(bowed、弓)の名の通り弓で弾く楽器です。弓で弾くことに重きを置いて作られた初めてのツィター(Zither)属の楽器でもあります。ツィター属は琴属とも言い、弦鳴楽器に分類されます。箏やツィンバロム、ダルシマーが含まれるなど、ツィター属の楽器は幅広い地域で見られます。基本的に台形の平らな音響板に1音につき1弦を平行に複数張った楽器です。主に音の高さが固定的な撥弦楽器であり、指やピックで弾いて演奏します。
プサルテリーという語は紀元前3世紀のセプトゥアギンタ(七十人訳聖書)における詩篇で、ネベル(nebel)の訳語としてキリスト教文学に入りました。psalteryは、古代ギリシア語のψαλτήριον(psalterion、指で弾いて演奏するの意)に由来します。
12世紀にイスラーム王朝下のイベリア半島を経由してヨーロッパに入った中東のカーヌーン(Qānūn)が、ヨーロッパのプサルテリーの起源であるとされています。カーヌーンは紀元前19世紀のアッシリアの弦楽器を起源とし、現在では、アラブ諸国、トルコで伝統的に使われている楽器です。
12世紀から15世紀にかけ、プサルテリーはヨーロッパで人気を博しました。この間、三角形や翼型、2つの湾曲した側面を持つ三角形、長方形、正方形、ハープ型といった様々な形、1音につき1弦から4弦を持つものといった様々な種類のプサルテリーが生み出されました。中世の終わりまでには殆どのプサルテリーは金属弦で張られていましたが、初期のプサルテリーにはガット弦が張られていた可能性も言及されています。
イスラーム王朝下のイベリア半島の影響を受けた南ヨーロッパでは、1音につき3または4弦を持つ台形のプサルテリーが好まれました。一方で、ヨーロッパ北部では、1音につき1または2弦の弦を持つ三角形または翼型のプサルテリーが好まれました。
当時の他の殆どの楽器と同様にプサルテリーには特定のレパートリーはなく、その時々に求められた曲を演奏するために使用されました。その後、プサルテリーはルネサンス期の半音階に上手く対応できなかったため、だんだんと使われなくなっていきました。
今日においてプサルテリーが使われる機会は大きく減ったものの、ヨーロッパの民族楽器の礎の一つとなり、ツィター、ダルシマー、ツィンバロム、アパラチアンダルシマー、オートハープ、ハンマーダルシマー、そして弓奏であるボウドプサルテリーへと派生していきました。
プサルテリーという名に引きずられてかボウドプサルテリーが古楽器として言及されていることがありますが、直接の発明時期から考えると新しい楽器と言えるでしょう。中世で既に弓奏のプサルテリー、ボウドプサルテリーがあった可能性は完全には否定出来ませんが、一般的なものではなかったと考えられます。
下の楽器の写真及び解説は全て「浜松市楽器博物館」より
左:カーヌーン(トルコ)、右:サントゥール(イラン)
左:チター(ブンシュ(マルクノイキルヘン、ドイツ))、右:アパラチアン・0ダルシマー(アパラチア地方、アメリカ)
<チター>
ヨーロッパのアルプス山脈がまたがるドイツ南部、スイス、オーストリア、そしてイタリア北部のチロル地方で150年以上前から弾かれてきた民族楽器。木製の共鳴箱の上に弦を張り、指ではじいて演奏する。5本のメロディー弦と30本以上の伴奏弦から成る。メロディー弦はA(ラ)、A(ラ)、D(レ)、G(ソ)、C(ド)の音に調弦する。伴奏弦は和音で伴奏しやすい順番で並ぶ。メロディーは、指版の上にあるメロディー弦を左手の指でおさえて音高を決め、右手の親指にはめた金属の爪(リング)ではじいてひく。伴奏弦は右手の残った指でひく。
イギリス映画「第三の男」(1949)の音楽にチターが使われたことで、世界的に有名になった。アメリカや日本にも愛好家が多い。
<アパラチアン・ダルシマー>
アメリカの板型チター。3~5弦。旋律弦は1本で残りはドローン弦。旋律弦部分にはフレットが付く。18cに北ヨーロッパからアパラチア山間地方に伝わったチターが原形。以後同地で制作され広まる。19cまで踊りや歌の伴奏に使用。1950年代にも一時流行した。ケンタッキー・ダルシマー、マウンテン・ダルシマーとも呼ぶ。
左から順に:ダルシマー(ヴェネツィア)、ツィンバロム(ハンガリー)、サントゥール(イラン)、揚琴/ヤンチン(中国)
<打弦の歴史>
大昔の人が弓の弦を棒などで打って音を出したことが打弦楽器の始まりであろう。楽弓などに今日でもその例が残っている。
ヨーロッパでの代表例は、胴に張った多くの金属弦をハンマーやバチで打ち鳴らすダルシマー。ペルシア起源ともいう。12c頃までにヨーロッパに伝わり、17c~19cに流行した。民族楽器として今日も各地で多様な形態のものが使われている。中でもハンガリーのツィンバロンはよく知られる。
16cのクラヴィコードが鍵盤装置の付いた打弦楽器として最初のもの。そして18cにピアノへと発達する。
参考・引用文献
- 『James Jones Bowed Psaltery Owner's Manual』, James Jones Instruments
- The Psilvery Psound of the Psaltery: a brief history, Early Music Muse early music performance and research
- about the Psaltery, Baltimore Recorders.org
- Bowed Psaltery, Corvus
- ツィター属, 音楽用語(conceptmpl.com)
- Psaltery-Wikipedia
- Psaltery, Britannica
- Qanoon, Furat Qaddouri
- Psaltery, Musica Antiqua(instate.edu)
- psaltery, Grinnell College Musical Instrument Collection, Grinnell Colledge Libraries
- 浜松市楽器博物館, 2025年9月2日見学
- 新編 音楽小辞典, 音楽之友社, 金澤正剛, 2020年5月31日 第18版
特徴
ボウドプサルテリーの最大の特徴としてフォルムが二等辺三角形であることが挙げられます。この唯一無二の形のおかげで全ての弦を弓で弾くことが可能となっています。右側にピアノの白鍵、左側に黒鍵の音の弦が張られていることで弦の位置を覚えやすくなっています。
1音につき1弦が張られていることでヴァイオリンの様に弦を押さえて音を取る必要がなく、ドの弦を弾けばドの音が出るため弓奏弦楽器が初めての方にうってつけです。
弦として金属弦が用いられています。弦が多く張られているため倍音が発生しやすく、まるで教会の中に居るような響きがとても豊かな楽器です。この豊かな倍音を響かせられるゆったりとした曲で真価を発揮します。ファンタジー世界で流れてきそうな独特な音色を持っています。
2本の弓を両手に持って演奏することができ、重音や途切れのない滑らかな演奏ができます。弓はボウドプサルテリー独自のものを使うことが多いですが、ヴァイオリンの弓を使う方もいるようです。スライド奏法という1アクションで複数弦を鳴らす奏法もあり、速いパッセージ、曲も演奏可能となっています。
弓だけでなく、トライアングルのビーターやハンマーダルシマーのハンマーで叩いたり指で弾いたりして演奏することで、また違った面も垣間見ることができます。
ふぇなれんのボウドプサルテリー
James Jones Instrumentsの新しいモデルのボウドプサルテリーを使っています。
James Jones InstrumentsはJames Jonesさんの個人工房で、他にもハンマーダルシマーやカリンバといった様々な楽器を製作されています。
製作工房のURL:https://www.jamesjonesinstruments.com
- 製作工房:James Jones Instruments
- 製作年:2023年
- 音域:Bariton C6-C3(37弦、3オクターヴ)
- 材質:スプルース、桜(側面と背面のみ)
- 使用弦:ニッケル巻き弦
- 弦間:3/4インチ(約19 mm)
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大きさ
縦 :約68 cm
横 :約24.5 cm
高さ:約5.5 cm
- 弓の長さ:15インチ(約38.1 cm)